Thursday, June 03, 2010

境界について

  • 形態素の音素交替は(音素の異音選択と同じく)「環境」(environment) を無視して語ることはできない。「環境」とは多くの場合「与えられた要素と(線条的に)隣接する別の要素」と考えてよいが、形態素の音素交替の場合それだけでは不十分であることが多い。形態素の連鎖は単純な線条連鎖ではないからである。つまり線条連鎖の背後にそれ以上の関係(たとえば枝分かれの関係など)を秘めているのが実態である。
  • 問題は、表面的に線条連鎖の形しか取れない形態素の連鎖の中に、そのような背後関係の違いをどうやって取り込むかである。背後関係の違いを線条連鎖上の境界の違いとして記述するのが「環境」乃至「要素」としての境界記号 $ # @ などの使用であるが、このような境界記号は、更なる検討によって妥当性が検証されるまではあくまで単に「方便的」なものと考えるべきであろう。すなわち日本語形態素の音素交替についてのより十分な記述には、アクセントを巡る音素交替の問題のみならず、境界記号の妥当性の検討も共に今後の課題であることを忘れてはならない。
  • 特に、「文法」(grammar) が主観的な規範ではなく客観的な記述を目標とする科学の一部門として、観察的妥当性 (observational adequacy) のみならず記述的妥当性 (descriptive adequacy) をも超える説明的妥当性 (explanatory adequacy) の少しでも見えてくる結果を目指すためにも。

0 Comments:

Post a Comment

<< Home