音便(はじめに)
- 日本語動詞の音素交替には「音便」と言う「子音動詞」(五段活用動詞)のいわゆる「連用形」だけに適用する規則的な交替現象がある。同じく「連用形」とされながら、たとえば『書きます』の『書き』が(特に口語で)『書いて』『書いた』と『書い』に変換されることなどを指す。この外に『飲みます』に対する『飲んで』『飲んだ』や『やります』に対する『やって』『やった』などがあり、それぞれ「イ音便」「撥音便」「促音便」と呼ばれている。
- この現象は動詞語幹と「助詞」/-ite/(「継続」を表す)または /-ita/(「過去」を表す)との接続に起きるもので、二段階に分けて概括することができる。第一段階は「助詞における音素 /t/ の有声化」(つまり /-ite/ /-ita/ がそれぞれ /-ide/ /-ida/ となる)で、第二段階が本番とも言える「動詞語幹と助詞の一体化」(つまり境界の消去)である。より「明示的」に述べると
/-ite, -ita/ →
/-ide, -ida/ / /n, m, b, g/ @ ____
(@ は「音便境界」)
2) (語幹と助詞の)一体化
a) /n, m, b/ @ /i/ → /N/ 「撥音便」
b) /g, k/ @ /i/ → /-G/ 「イ音便」
c) [-主体]@ /i/ → /Q/ 「促音便」
- 第一段階の有声化に起動条件として列挙した /n, m, b, g/ はまさに日本語の「有声閉鎖音」(広義)音素の全部である(動詞末尾に絶対来ない /d/ を除けば)。つまり示された条件である /n,m,b,g/ は [-継続,+有声] と言い換えてもよかったもので、 /t/ の有声化はまさに「同化」の現象であることが分かる。
- 第二段階の一体化そのものも優先順序を異にする三段階に分かれ、最初の「撥音便」は語幹末尾子音が [+前方,-継続,+有声] (前方有声閉鎖音)の場合、次の「イ音便」はそれが [+高舌, -継続] の場合、そして最終の「促音便」はそれが「その他」の子音の場合にそれぞれ起動する。そしてシラブル境界が消去されてモーラ数だけが保存される出力 (output) はそれぞれ起動条件の痕跡を残す ([+有声] の)/N/ と([+高舌] の)/-G/ 、最後は起動条件が「その他」であることの結果として(最も中立的な無声の)/Q/ となっている。
- なお子音動詞と言っても事実上語幹末尾に来ることのある子音は /n, m, b. g, k, f, t, r, s/ だけで、このうち /s/ に終わる動詞には音便はない。ということは /s/ に終わる動詞語幹だけは一体化可能の「音便境界」@ の代わりに「普通境界」# などが末尾に付いていると考えざるを得ない。
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