連濁の阻止
- 複合語形成において後部要素の先頭無声阻害音 (initial voiceless obstruent) が有声化するいわゆる「連濁」という「音素交替」の過程は、現代日本語には現象として存在するが、全体的法則としては存在しない。しかしある「環境」(つまりある種の「連濁母体連鎖」)において逆に後部要素の先頭阻害音を無声にとどめる(つまり有声化を阻止する)いわゆる「ライマンの法則」は全体的と言えるぐらいに強力な法則として存在してはいる。それは明示すると次のような法則だといえる。
- これは「形態素境界 $ 直後 の阻害音は、 形態素内に別に有声阻害音(つまり濁音)がある場合、 無声でなければならない」という意味(境界 $ は形態素間の境界、括弧で囲った m… は境界と濁音との間にモーラが (すなわち母音などが) 一個またはそれ以上介在してもしなくてもよいこと)、つまり「後部要素がすでに濁音を含んでいる複合語では連濁は起こらない」という意味である。
- もちろん「ライマンの法則」だけが連濁を阻止しているわけではない。特定の複合語(たとえば『片仮名』<カタカナ>など)でその後部要素の先頭子音が独自に始めから 連濁を拒否することも多く見られる。これに「ライマンの法則」が加わって現代日本語の(個人差・地域差を含む)複雑な連濁阻止(つまり連濁の例外)の現状が作られているのである。
- 強調せねばならないのは、「連濁」も「ライマンの法則」も複合語形成だけに働くので必ず形態素境界が関わること、つまり形態素境界が関わるとは限らない形態素内における(音素の)「異音選択」と異なる、ということである。そのような「異音選択」だがその法則(制約)の一つに昔は次のような(全体的な)「相補分布」の制約が存在していたと思われる。
その他は [+阻害] → [-有声]
- この「相補分布」の制約が存在したから昔は濁音を完全に予測することができ、それで昔は仮名に濁点を付ける必要がなかった。しかし今ではこの制約は崩壊し、阻害音の [+有声] と[-有声] を制約によって予測することはできなくなってしまった。但し 制約の[+母音] ___という条件そのものは完全に消失してはおらず、今日の複合語形成において、「連濁」という「音素交替」の現象として(次のような形で)部分的ながらその痕跡をとどめている、というわけである。($ は形態素境界ゆえ直前に来る要素は和語の一部であれば必ず母音、したがって条件 $__ は実質的には条件 [+母音] __ と異ならないことに注意)。
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