「異形態的」差異と「異音的」差異
- 「富士山」の「サン」と「比叡山」の「ザン」のような差異を(「山」という「形態素」の)「異形態的」(allomorphic) 差異と言い、「新聞紙」に二度出てくる「ン」(/N/)が一つ目では [m゚] で、二つ目では [n゚] となるような差異を (/N/ という「音素」の)「異音的」(allophonic) 差異と言う。([m゚] [n゚]はそれぞれモーラ性があり、そうでない[m] [n]と対応する)
- 「サン」/saN/ と「ザン」/zaN/ の差異は「産業」と「残業」などの区別に欠かせない。つまり /s/ と /z/ の差異は「産」と「残」という二つの異なる形態素の形成に貢献し、情報伝達上無視できない重要な差異である。だから /s/ と /z/ はそれぞれ独立した音素なのである。一方 [m゚] と [n゚] はそれぞれ「心配」と「寝台」に用いられるが、取り違えたとしても矢張り「心配」は「心配」、「寝台」は「寝台」と理解される。だから[m゚] と [n゚] はそれぞれ独立した音素ではなく、単なる異音同士で、その差異も情報伝達上さほど重要な差異ではない(とは言っても「日本語らしい日本語」の聴解・発話のためには矢張り無視できない)。
- 「異音的差異」は単に異音の入れ替えによる「非音素的」差異だが、「異形態的差異」は全てが音素の入れ替え(付加・削除を含む)による「音素的」差異である。特に注意すべきことは、全く同一の聴覚差異が、言語の違い(または同じ言語での時代の違い)によって「非音素的」だったり「音素的」だったりすることである。たとえば [t'] (有気)と [t] (無気)の差異は漢語系諸言語では「音素的」だが日本語では「非音素的」(=「異音的」)である。また「カキクケコサシスセソ」と「ガギグゲゴザジズゼゾ」の差異なども、今でこそ「音素的」だが、古くは「非音素的」(=「異音的」)に過ぎなかったと考えられる。
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