Friday, October 28, 2005

促音と撥音の特質(2005/11/03)


  • V, CV, および GVタイプの仮名が五十音図のいわば正メンバーであるが、これ等ばかりが日本語の仮名ではない。例えば「出版」という語の表記には促音(Qと記号化) および撥音 (Nと記号化) と呼ぶ欄外の仮名をも使用せねばならない。

  • 促音 (Q) と撥音 (N) の最も重要な特質は、V と同じく、俳句などで「字音」として勘定されることである。しかし主体性を持たない点においては C, G と同類である(例外的に主体性を持つ場合の「ん」を除けば)。

  • 主体性の有無と無関係に「字音」として勘定され、結果的に語句の長短を左右する要素、それが日本語のモーラである。

  • 分節音のそのような特質はモーラ性または音拍性と呼ぶことができる。Q と Nは(一般的に)主体性を欠きながら V と同様にモーラ性を持つ特別な分節音なので「モーラ音素」と呼ばれている。

Q


古池や蛙飛びこむ水の音 は記号 V, C, G, Q, N だけを用いる書き換えにより次のように分析される(記号間のドットはモーラ境界)。


フルイケヤ カワズトビコム ミズノオト


CV.CV.V.CV.GV // CV.GV.CV.CV.CV.CV.CV // CV.CV.CV.V.CV


同じような分析を ぬかづけばわれも善女や仏生会 に対して行いなさい。


A


ヌカヅケバ ワレモゼンニョヤ ブッショウエ


CV.CV.CV.CV.CV // GV.CV.CV.CV.N.CGV.GV // CV.Q.CGV.V.V


Tuesday, October 11, 2005

半母音(2005/10/27)


  • 分節音を特徴づける根本素性としての主体性の有無は、殆どが(口腔内で息を妨げる)阻害性の有無の裏返しである。「殆ど」と断るのは、主体性はある程度まで(言語により)弾力的だからである。

  • 一般的には阻害性が子音と母音の分かれ目で、いわゆる母音はどれも阻害性がマイナス、いわゆる子音はどれも阻害性がプラスである。しかし主体性については、母音は「主体性プラス」が普通(無標)だが、「主体性マイナス」の場合もあり、逆に子音も、「主体性マイナス」が普通(無標)だが、「主体性プラス」の場合もある。

  • いわゆる母音のうち「主体性マイナス」のものがいわゆる半母音で、G (=Glide) と記号化され、V (=Vowel) と記号化される「主体性プラス」の真母音と区別される。事実上五十音図には、CV タイプと V タイプの外に、GV タイプの仮名も含まれている。

Q


五十音図に含まれたGV タイプの仮名を四個挙げ、素性値分布表によってそれぞれの G についての主体性、阻害性、high、back、low、 round の六素性をめぐる素性値を、 V としての /イ、ウ/(=[i,u]) のそれと対照させなさい。


A

Friday, October 07, 2005

子音の弁別(2005/10/13)


  • 主体性がプラスの)母音(vowels=V) が high, back, low, round の四素性だけで可成の程度まで弁別できるのに対し、(主体性がマイナスの)子音(consonants=C) も anterior (前方性)、coronal (舌頂性)、 nasal (鼻音性)、voice (有声性)の四素性で可成の数の分節音が弁別される。
  • 冒頭に掲げた素性値分布表は、仮名八個について、含まれた子音の上記四素性に対する素性値を示したものである。(有声性がの行で空白になっているのは、該当する素性値が、連動により、必ずプラスになるから省かれたもの)

Q

示された八個の仮名のうち、に含まれた子音に性質が最も近い子音を含むのはどれか。理由を挙げて答えなさい。

A

は明らかに鼻音性を持たないことよりが先ず除外され、次にのように [+有声性] の印(濁点)を持つでもないことよりも除外される。最終候補はとなり、そのうちだけがと調音点が共通 ([+前方 , +舌頂])。よってに最も近いのはということになる。 

Sunday, October 02, 2005

弁別的素性(2005/10/06)

  • 分節音は大きく分けて、(単独でよく聞こえる)主体性のあるもの(IPA の [a] など)と、そうでないもの (IPA の [p, b] など)とがある。いわゆる母音(Vと記号化)子音(Cと記号化)である。つまり分節音にとっては、主体性の有無は、各分節音を特徴づける種々の特質の根本となる特質である。
  • 分節音を特徴づける特質は分節音の弁別的素性 (distinctive features) と呼ばれ(素性は略称)、n 個の素性に対する正負値(素性値)の組み合わせで、(数学的に)2 の n 乗に等しい数の分節音を弁別することができる(素性値の連動を含む依存関係の偏りにより、実際は2 の n 乗以下)。
  • 例えば母音については、high (高舌)、 back(後舌)、 low(低舌)、 round(円唇) の四素性だけで(数学的に)16 (実際にはそれ以下)の母音が弁別される。
Q
IPA の [i, u, e] を特徴づける素性値の必要且つ十分な組み合わせがそれぞれ [+high, -back, -low, -round] [+high, +back, -low, +round] [-high, -back, -low, -round] であること(すなわち +---、++-+、----)より、[o] を特徴づける素性値の必要且つ十分な組み合わせを推定しなさい。
A
[-high, +back, -low, +round] と推定。つまり high, low (縦軸関係)についての [e] との共通素性値と、back (横軸関係)および round (唇の丸み)についての [u] との共通素性値より、 ( [i] とは縁遠いが) [e, u] のどちらとも比較的近いということ。