Saturday, April 29, 2006

十の倍数とアクセント (2006/5/04)

  • アクセントの合併で、特に見逃せないのが「複合数詞」のアクセントであろう。例えば十の倍数にはそれぞれ次のようなアクセント合併が起きている。
に・じゅう (H)(HL) > にじゅう (H.LL)
さん・じゅう (LH)(HL) > さんじゅう (HL.LL)
し・じゅう (H)(HL) > しじゅう (L.HL)
よん・じゅう (HL)(HL) > よんじゅう (HL.LL)
ご・じゅう (H)(HL) > ごじゅう (L.HL)
ろく・じゅう (L.H)(HL) > ろくじゅう (L.H.HL)
しち・じゅう (L.H)(HL) > しちじゅう (L.H.HL)
なな・じゅう (H.L)(HL) > ななじゅう (L.H.LL)
はち・じゅう (L.H)(HL) > はちじゅう (L.H.HL)
く・じゅう (H)(HL) > くじゅう (L.HL)
きゅう・じゅう (HL)(HL) > きゅうじゅう (HL.LL)

Q

よく観察すれば、ある(一般化可能の)特徴が 11 個の「複合数詞」を二分していることに気付く筈である。その特徴にしたがってこれら の「複合数詞」を二つのグループに並べ替えなさい。

A

  • 後尾が ~.LL の形を持つグループ

に・じゅう (H)(HL) > にじゅう (H.LL)

さん・じゅう (LH)(HL) > さんじゅう (HL.LL)

よん・じゅう (HL)(HL) > よんじゅう (HL.LL)

なな・じゅう (H.L)(HL) > ななじゅう (L.H.LL)

きゅう・じゅう (HL)(HL) > きゅうじゅう (HL.LL)

  • 後尾が ~.HL の形を持つグループ

し・じゅう (H)(HL) > しじゅう (L.HL)

ご・じゅう (H)(HL) > ごじゅう (L.HL)

ろく・じゅう (L.H)(HL) > ろくじゅう (L.H.HL)

しち・じゅう (L.H)(HL) > しちじゅう (L.H.HL)

はち・じゅう (L.H)(HL) > はちじゅう (L.H.HL)

く・じゅう (H)(HL) > くじゅう (L.HL)

Sunday, April 09, 2006

語の結合とアクセント (2006/4/20)

  • とにかく連濁は、後部要素が前部要素とある強い関係によって合体(「一語化」)しなければ起こらない。だからそのような「一語化」のしるしでもある。だが実は連濁より手近な(または広範囲な)「一語化」のしるしとなるのがアクセント型の合併である。
  • 例えば「火山」と「灰」の合体による「火山灰(カザンバイ)」のアクセントは、HL連鎖で表すとL.HL.LL となり、「火山」と「灰」のH.LLLH を単純に並べた連鎖(H.LL.LH)とちがっている(高い部分が二個所から一個所に減っている)。(記号のH は High のモーラ、L は Low のモーラ、肉太のH はアクセント核、ドットはシラブル境界、などを忘れないこと)。関係全体を記号化すると

かざん・はい (H.LL)(LH) > かざんばい (L.HL.LL)

Q

「火山灰(カザンバイ)」は漢語と和語の合体であるが、このような「複合名詞」は、語源で分類すると、「漢・漢」「漢・和」「漢・外」「和・漢」「和・和」「和・外」「外・漢」「外・和」「外・外」(「外」は片仮名表記の外来語)の計九種の組み合わせが数学的に可能である。「複合名詞」をこのように分け、(漏れや重複のないよう)該当する「モーラ数 ≧ 4」の「複合名詞」九個を選び、それぞれのアクセント合併を上記のように記号化しなさい。

A

  • 選挙運動 (漢・漢)

せんきょ・うんどう (HL.L)(LH.HH) > せんきょうんどう (LH.H.HL.LL)

  • 首位争い (漢・和)

しゅい・あらそい (H.L)(L.H.HL) > しゅいあらそい (L.H.H.L.LL)

  • 大河ドラマ (漢・外)

たいが・どらま (HL.L)(H.L.L) > たいがどらま (LH.H.H.L.L)

  • 津軽海峡 (和・漢)

つがる・かいきょう (H.L.L)(LH.HH) > つがるかいきょう (L.H.H.HL.LL)

  • 窓口 (和・和)

まど・くち (H.L)(L.H) > まどぐち (L.H.L.L)

  • 窓ガラス (和・外)

まど・がらす (H.L)(L.H.H) > まどがらす (L.H.H.L.L)

  • リーグ優勝 (外・漢)

りーぐ・ゆうしょう (HL.L)(LH.HH) > りーぐゆうしょう (LH.H.HL.LL)

  • マンション住まい (外・和)

まんしょん・すまい (HL.LL)(L.HL) > まんしょんずまい (LH.HH.H.LL)

  • スポーツセンター (外・外)

すぽーつ・せんたー (L.HL.L)(HL.LL) > すぽーつせんたー (L.HH.H.HL.LL)

Monday, April 03, 2006

連濁の歴史 (2006/4/13)

  • 連濁における濁音は、もともと音素的に独立してはいなかった(そのため「いろは歌」などでは仮名に濁点を付ける必要がなかった)。しかし音素的に独立していないということは「音」として存在しないということではない。同じ音素の異音として、対応する清音と「相補分布」の関係を持ちながら共存していたということに過ぎない。(異音としての濁音はこのように完全に予測可能だったので、仮名に濁点を付ける必要がなかったのである。)
  • ところが濁音は(言語接触などにより)音素的に独立してしまった。それ以来連濁は異音変異ではなく音素交替の性格を帯びるようになり、「発音を楽にする」古くからのニーズと「音素を正しく弁別する」新たなニーズの狭間にあって、それまでの「相補分布」の規則性が期待できなくなってしまう。そして濁点を使わない仮名表記も不便なものとなる。
  • このようにみると、連濁の辿った歴史は古くからのニーズ(保守の力)が新たなニーズ(改革の力)に押され続けてきた歴史であった、と言えることになる。すると「比叡山=ザン」は保守のニーズの現れ、「富士山=サン」は改革のニーズの現れであろうか。