- 動詞の「五段活用」(文語では「四段」)は語幹形態素が五個の異形態に分かれる「活用」で(話さない、話した、話す、話せば、話そう)、「下一段」や「上一段」(文語では「二段」)は語幹形態素が複数の異形態に分かれない「活用」である(食べない、食べた、食べる、食べれば、食べよう)とされている。このような記述は、各異形態とその選択条件の列挙による、言わば「要素羅列式」の記述である。もちろんこのような記述でも、記述が事実に反していなければ、「観察的妥当性」(observational adequacy) の要求を満たすことはできる。しかしそれ以上は望めない。
- 「要素羅列式」と対照的なのが、一定の「音形規則」による「変形明示式」と言うべき(20 世紀後半に広まった)記述法である。この方法では、たとえば「五段活用」の動詞語幹は五個の異形態には分かれず、一個の基本形(基底形)があるのみで、その基底形と接続要素それぞれの基底形との(「音形規則」による)連動によっていろいろ違う形が「派生」(derive)されることになる。具体的に関わるのは、次の「音形規則」(「シラブル主体性同値不連続規則」と呼ぶことにする)である。
[α主体性]
→ 0
/ [α主体性]
__
(同一シラブル内で、主体性の同じくプラスまたはマイナスとなる分節音が連続する場合、二個目の分節音は削除されなければならない)
- つまり、たとえば『話す』『話さない』と『食べる』『食べない』はそれぞれ語幹基底形 /hanas/ /tabe/ が -/anai/(否定基底形)-/ru/ (終止基底形)との接続(膠着)において上記の「音形規則」により次のように「派生」される、と言う記述法(分析法)である。
話す /hanas-ru/
→ /hanasu/ (/r/ を削除して膠着)
話さない /hanas-anai/
→ /hanasanai/ (直接膠着)
食べる /tabe-ru/
→ /taberu/ (直接膠着)
食べない /tabe-anai/
→ /tabenai/ (/a/ を削除して膠着)
- このような記述によると、いわゆる「五段活用」の動詞語幹基底形はすべて子音に終わり(話す /hanas/ 歩く /aruk/ 立つ /tat/ など)、一方「下一段」や「上一段」の動詞語幹基底形はすべて母音に終わる(食べる /tabe/ 教える /osie/ 起きる /oki/ など)。それでこの種の記述の討論に「子音動詞」「母音動詞」が名称としてよく「五段活用」「一段活用」の代わりに使われる。(但し「笑う」などは「笑ふ」として)